華奢な体を押さえ付けて
何度も何度も奪ったけれど
罪悪感は未だなく
ただ亡くした質量の分だけ
いくらあがいても埋まらない






ラボに戻ると部下のラズが真っ先に声をかけてきた。私を慕ってくれている少年 。

「お帰りなさいチーフ!どうでしたか、例の少女。」

「あぁ…今第一ラボに運んだ。気になるなら見てくるといい。どうせ施術は明日 だ。」

彼女用に色々と準備しなければならない。けれどいつもの億劫な作業も目を開く 彼女を想像すればなんてことはない。
その瞬間を想うだけで、震える。

「そうですか。じゃあ見に行って来ます!」

元気よく走り出す彼はこの場所に似つかわしくない。もっと光の当たる所にいた 方が輝いて見えるだろうに。

笑顔で彼を見送って、幹部しか入ることが許されないSラボに向かう。報告をし、 準備をする為。
悪魔の儀式。

真っ先に所長の部屋へ向かう。暗証番号を入力し扉を開けるとしたり顔のユーリ −−所長の名前だ−−が目に飛び込んで来た。

「そろそろ来るだろうと思っててね。待ってたんだ」

意地悪く笑う彼はもしかして知っていたのかもしれない。知っていて自分を担当 に充てたのだとしたら。
趣味が悪いでは済まされない。


「……セレナの搬送及び一時保存、滞りなく終了致しました。」

無表情で淡々と述べる。そう踊らされてたまるものか。

じっと見つめ、所長は口を開いた。
「…気に入っただろう?彼女。」

やはり確信犯。

「まぁあの子は君に預けるよ。NO.8として充分に育成してやってくれ」

経歴を見るかぎりでは優秀な少女のようだし。
そう呟くと所長はまたニィと笑った。

「アレも壊したりしないように。それだけは気をつけろ」

どうして人の古傷をえぐるような事ばかり。それで私がお気に入りなのだと言う のだからこの人は相当屈折している。

敬礼して部屋を出る。バイオポッドのある部屋に入って鍵をかけた。

バイオポッド。死人も蘇る近代科学技術の結晶。
設置してある研究機関は世界中でも、こことほんの数ヵ所だ。

もっとも本来の使い道はこうではない。本来は臓器移植や無くした部位の再生、 例えば手足。そういう物を造りだす為の機械であって決してもういない人の為に 使われるべき物ではない。
それでもこんな事が許されるのはこれの開発者が我らが所長であるユーリだから だ。

ポッドの設定数値をセレナに合わせながら考える。
あの子が明日生き返って、そして私はどうするのだろう。

彼女で蘇るのは8人目。今までの7人中3人は『教育』も終わり各々別々の任務につ きそれを遂行している。それも国家機密だ。

いつかはまた別れる。

全て見通した上でユーリはセレナを私に託したのだ。本当に意地の悪い。

ガラスのポッドに映る自分の顔を睨み付けてまた言い聞かせた。

忘れるな。彼女はもういないんだ。
贖罪も求めてはいけない。許しを請うことは赦されない。
それが自分の罰なのだから。

深く深呼吸をして再び作業を始めた。早く心の準備をしなければいけない。逸る 心を押し殺して、早く。

例えば明日、動き出す彼女を見ても。間違っても泣いてしまったりしないように 。